くじら島の森で、キツネグマに襲われたゴンをカイトが救う場面は、第1巻 No.1「出発の日」です。物語の第1話で、死んだと思っていた父ジンが生きていてハンターをしていると、ゴンが知った出会いが描かれる回です。この出会いから、ゴンの旅が始まります。
どんな場面か
第1話の回想で描かれる、ゴンが幼いころの出来事です。くじら島の森で、ゴンはキツネグマに襲われます。そこへ見知らぬ男が現れ、ゴンを救います。男は父ジンの弟子カイトでした。カイトはゴンに、父が今も生きている優れたハンターだと教えます。そして、子グマがゴンに懐いている様子を見て、ゴンにハンターの素質があると認め、去っていきます。
考察
素質を測る物差しが「強さ」ではない
作中の事実として、カイトがゴンの素質を認めたきっかけは、子グマがゴンに懐いている様子でした。ゴンがキツネグマを倒したわけでも、何かの技を見せたわけでもありません。
ここからはヨミコミの読みです。HUNTER×HUNTERは、のちに念能力や激しい戦いが描かれていく作品です。その第1話で、ハンターの素質として示されたのが、戦う力ではなく、動物に好かれることだった。この物差しの置き方に、作品がハンターという存在をどう見ているかが表れていると考えます。
動物に好かれるということは、相手を警戒させない、相手の側に立てる、ということでもあります。強さより先に、生きものとの関わり方が問われている。ゴンの素質は、最初から「他者とつながる力」として描かれていたと読めます。
父のことを、父の弟子から聞くという構図
この場面でゴンに父の存在を教えるのは、ジン本人ではなく、ジンの弟子であるカイトです。
ヨミコミは、この構図が物語全体に響いていると読みます。ゴンはこのあと、父に会うことを目的に旅に出ます。けれど父は、なかなか姿を見せず、くじら島に残したテープ(No.66「テープ」)やゲームの仕掛けを通して語りかけてくる存在です。ゴンにとって、生身の人間として最初に「ハンターとは何か」を示してくれたのは、父ではなくカイトでした。
そして、G.I編の最後で、ゴンが仲間と一緒に飛んだ先にいたのもカイトです(No.185「邂逅」)。ジンが行き先をカイトに設定していたことを考えると、カイトは物語の中で、父と息子をつなぐ役割を担い続けている人物だと言えます。
始まりの言葉は、のちに戻ってくる
この第1話の言葉は、ずっと後のキメラ=アント編で、ゴンの記憶としてもう一度登場します(No.305「残念」)。
ここでは詳しい展開には触れませんが、旅の始まりに置かれた言葉が、ゴンにとって最もつらい場面で思い出される。ヨミコミの読みでは、この言葉はゴンにとって、自分がハンターを目指した理由そのものとして刻まれています。第1話を読み返すと、何気ないやりとりが、長い物語の支点になっていたことに気づかされます。
今の自分に置き換えると
自分の良さや向いていることは、自分ではなかなか見えないものです。資格や実績、目に見える成果がないと、自分には何もないように感じてしまうこともあるでしょう。
カイトがゴンの素質を見抜いた場面は、人の良さを測る物差しが一つではないことを示しています。成果や強さでは測れないところに、その人らしさが表れていることがある。周りの人が自然と寄ってくる、相手を安心させられる。そうした性質も、立派な素質の一つです。
もう一つの読み方として、自分が誰かの良さを見つける側に立つこともできます。目立つ成果ではなく、その人の振る舞いの中にあるものを見て言葉にする。カイトのひとことがゴンの旅の始まりになったように、誰かにかける言葉が、その人にとって大事な支えになることもあります。
あわせて読みたい
この出会いの続きとして、G.I編の最後でゴンがカイトのもとへたどり着く場面(No.185)や、この言葉が再び登場する場面(No.305)もあわせてどうぞ。