ハンター試験の最終試験で、ゴンがハンゾーに腕を折られても降参を拒み続けた場面は、第4巻 No.34「合格第1号!?」です。強さでは完全に負けているのに、場の空気がゴンの側に傾いていく、不思議な対戦が描かれます。
どんな場面か
最終試験でゴンと向き合ったのは、忍のハンゾーでした。ゴンは腕を折られ、刃を突きつけられても、降参することを拒み続けます。力の差は歴然としているのに、場の主導権はいつの間にかゴンの側に移っていきます。父に会うという目的のために退くことはできないと語るゴンを前に、折れたのはハンゾーのほうでした。
考察
力で勝っても、終わらせられない勝負
作中の事実として、ハンゾーは力でゴンを圧倒しています。腕を折り、刃を突きつけるところまで追い込んでいる。それでもゴンは降参せず、最後に折れたのはハンゾーでした。
ここからはヨミコミの読みです。この対戦が面白いのは、強さと勝ち負けがずれていくところです。ハンゾーはゴンを痛めつけることはできても、ゴンに降参させることはできない。相手の心が折れない限り、どれだけ力で上回っても勝負は終わらない。力で優位に立っているはずのハンゾーが、次の一手に困っていく。
主導権とは、強い側が自動的に持つものではない。何があっても退かないと決めている側が、場の流れを握ってしまうことがある。この場面は、そうした逆転を小さな対戦の中で描いていると考えます。
退かない理由が「父に会うこと」である意味
ゴンが退かない理由は、父に会うためでした。ここで諦めたら、もう会えなくなる気がする。この場面のゴンの言葉は、その感覚をまっすぐに語っています。
第1話でゴンは、ジンの弟子カイトから、父が今も生きている優れたハンターだと聞かされていました(No.1「出発の日」)。ゴンにとってハンター試験は、父に近づくための入口です。ヨミコミの読みでは、ゴンが守っているのは試験の合否そのものより、父に会いたいという気持ちのほうです。ここで降参することは、その気持ちに自分で区切りをつけてしまうことだと、ゴンは直感的に感じていたのではないでしょうか。
理屈ではなく「気がする」という言い方になっているのも、ゴンらしいところです。計算して退かないのではなく、退いたら大事なものを失うと体でわかっている。その素直さが、ハンゾーの側を動かしたとも読めます。
折れたハンゾーは「負けた」のか
最後にハンゾーが折れたことは、単純な敗北とは違う意味を持っているとヨミコミは考えます。力で上回る側が、相手の意志の強さを前に手を引く。それは、相手を認めたということでもあります。
この対戦は、ゴンの退かなさがどれほどのものかを、読者と作中の人物が同時に知る場面です。その同じ頑固さは、すぐあとの場面で、友だちを取り戻すためにイルミへ詰め寄る姿にもつながっていきます(No.37「光と闇③」)。自分の目的のためにも、友だちのためにも、ゴンは同じように退かない。その原型がここにあります。
今の自分に置き換えると
実力の差を見せつけられたとき、もう無理だと感じて降りたくなる瞬間があります。資格試験、転職活動、自分で始めた仕事。相手や状況のほうが明らかに強く見えるとき、続ける理由を見失いがちです。
ゴンの姿から読み取れるのは、力の差があっても、自分がなぜ退かないのかをはっきり持っている人は簡単には崩れない、ということです。大事なのは根性の量ではなく、退かない理由が自分の中にあるかどうか。
もちろん、体や心を壊してまで続けることをすすめる場面ではありません。ただ、降りるかどうか迷ったときに、自分はなぜこれを始めたのかを一度思い出してみる。その答えが今もはっきりしているなら、もう少しだけ踏みとどまってみる価値はあるかもしれません。
あわせて読みたい
この直後、ゴンが友だちのためにイルミへ詰め寄る場面(No.37)や、ゴンに父の存在を教えた第1話(No.1)もあわせて読むと、ゴンの退かなさの根っこが見えてきます。