キルアが自分の頭から針を抜き取る場面は、第21巻 No.219「覚醒」です。話タイトルのとおり、キルアというキャラクターがひとつ殻を破る回で、キメラ=アント編の中でも読み返されることの多い一話です。
どんな場面か
キメラ=アント編の中盤。ゴンを守るため、キルアはキメラアントのラモットを自分のほうへ引きつけます。ところが戦いの最中、逃げろという兄の声が頭の中で響き、体が思うように動かなくなる。一方的に殴られ続けるなかで、キルアはゴンと過ごした日々を思い出し、恐怖を押し返します。そのとき、兄が自分の頭に仕込んでいた針に気づき、自らの手で抜き取る。そこから戦いの流れは一変します。
考察
恐怖は「自分の判断」ではなかった
この場面でいちばん大きいのは、キルアがそれまで感じていた逃げたいという気持ちの一部が、自分の中から出たものではなかったと明かされることです。兄イルミが仕込んだ針が、キルアの判断に割り込んでいた。これが作中で描かれた事実です。
ヨミコミでは、この事実が過去の場面の見え方を変えると読みます。ハンター試験の最終試験で、キルアは兄の言葉に支配されるように試験を去りました。第19巻 No.199では、ゴンの隣にいていいのかと迷っていました。そうした迷いや後退のすべてが針のせいだとは言えませんが、少なくともキルアは、自分の弱さだと思っていたものの中に、他人に植え付けられた部分があったと知ったわけです。
なお、針がいつ仕込まれたのかについて、ここでは断定しません。この記事で扱うのは、No.219でキルアが針の存在に気づき、自分で抜いたという点です。
順番に意味がある
描写の順番にも注目してください。キルアはまず、ゴンとの日々を思い出して恐怖を押し返します。針に気づくのは、その後です。
ヨミコミの読みでは、この順番こそが核心です。針を見つけたから恐怖が消えたのではなく、恐怖に抗おうとしたから針が見えた。支配されている間は、支配されていることにすら気づけない。自分の意思で一歩踏み出したとき、初めて何に縛られていたのかが見える。そういう構造として描かれていると読めます。
力をくれたのはゴンとの時間
キルアを動かしたのが、強い技や新しい修行ではなく、ゴンと過ごした日々の記憶だった点も見逃せません。ハンター試験編で、ゴンはイルミに向かって、兄を名乗る資格はないと言い切り、キルアを取り戻しに行きました。あのとき外から差し伸べられた手が、時間を経て、今度はキルア自身の内側から力になっている。そうつながって見えます。
これで終わりではない
針を抜いたことで、キルアが兄の影から完全に自由になったわけではありません。会長選挙編の第32巻 No.336では、キルアが頭の中の兄の影を振り払うために自分の頬を叩く場面が描かれます。針そのものは抜けても、身についた考え方の癖はすぐには消えない。No.219は解放の完了ではなく、その始まりとして読むのがしっくりきます。
今の自分に置き換えると
何かに挑もうとするとき、どうせ無理だ、やめておけ、という声が頭に浮かぶことがあります。その声は、本当に今の自分の判断でしょうか。それとも、昔だれかに言われた言葉や、過去の失敗から身についた癖でしょうか。
キルアの場面から受け取れるのは、その区別は、立ち止まって考えているだけではつきにくいということです。キルアの場合、守りたいものを思い出して一歩踏み出したときに、初めて針が見えました。怖さを感じたら、まず自分にとって大事なものを思い出してみる。そのうえで、頭の中の声がどこから来ているのかを確かめてみる。そういう順番で考えてみる価値はありそうです。
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針に気づく前のキルアの迷いと、針を抜いたあとも続く兄の影との向き合い方を、前後の場面でたどれます。