キルアがナニカとアルカに謝り、二人を抱きしめる場面は、第32巻 No.336「解除」です。会長選挙編の中で、キルアの兄としての姿がいちばんはっきり描かれる一話といえます。
どんな場面か
会長選挙編。イルミを退けたあと、キルアはナニカに、表に出ないよう強く命じてしまいます。やがて目を覚ましたアルカは、ナニカが泣いていると怒り、自分を守るのならナニカも守れと兄に迫ります。キルアは自分の頬を叩いて頭の中の兄の影を振り払い、二人に謝って抱きしめます。
考察
命令は、守るためのものだったと読める
命令が出たのは、兄イルミを退けた直後です。ヨミコミでは、キルアが悪意からではなく、キルアなりに妹を守ろうとしてあの言葉を選んだのだと読みます。そして事実としてナニカに対しては、キルアの命令が特別な重みを持つことが、この編では描かれています。
だからこそ、その命令は重い。守るつもりで出した言葉が、守りたい相手の一部を押し込めてしまった。この場面の痛みはそこにあります。
キルア自身が受けてきたことの裏返し
ヨミコミがこの場面で注目したいのは、キルアが自分の頬を叩くという動作です。ヨミコミの読みでは、キルアはこの瞬間、自分の中に兄のやり方が入り込んでいたことに気づいたのだと考えます。
キルアはこれまで、兄イルミに言葉や針で行動を縛られてきました。ハンター試験の最終試験では兄の言葉に支配されて試験を去り、キメラ=アント編の第21巻 No.219では、頭に仕込まれていた針を自ら抜きました。そのキルアが、今度は妹に対して、強い命令で行動を縛る側に立ってしまった。守るためという理由があっても、相手の意思より自分の判断を優先して押さえつける点で、構図が重なって見えます。
頬を叩いて兄の影を振り払うという描写は、針を抜いたあとも、身についた考え方の癖がキルアの中に残っていたことを示している、とヨミコミでは読みます。そしてキルアは、それに自分で気づき、自分で止めた。No.219が外から入れられたものを抜く場面だとすれば、No.336は自分の中に染みついたやり方を手放す場面です。
アルカの言葉が突きつけたもの
アルカが求めたのは、自分だけを守ることではありませんでした。ナニカも含めて守ってほしい、ということです。扱いやすい部分だけを受け入れて、扱いにくい部分は閉じ込める。それは本当に相手を守っていることになるのか。アルカの訴えは、その問いを兄に返しています。
キルアが謝ったのは、アルカとナニカの両方にでした。ここでキルアは、二人を一緒に受け止めることを選び直したと読めます。
ゴンが教えたことの延長線上
ハンター試験編で、ゴンはキルアを取り戻すためにイルミの前に立ち、兄を名乗る資格はないと言い切りました。相手を縛るのではなく、相手の意思を信じる。キルアがゴンから受け取ったその姿勢を、今度は自分が妹に向ける番になった。No.336は、そういう形でハンター試験編とつながっていると考えます。
今の自分に置き換えると
大事な人を守ろうとして、つい強い言い方をしてしまうことがあります。心配だからこそ、ああしなさい、それはやめなさいと、相手の選択を先回りして決めてしまう。
キルアの場面から読み取れるのは、そのやり方がどこから来たのかを振り返る価値があるということです。心配から出た言葉が、相手の気持ちより自分の不安を優先していないか。気づいたときに止めて謝ることは、関係を選び直すことでもあります。
そしてもう一つ。相手の中の扱いにくい部分まで含めて向き合うことは簡単ではありません。キルアも一度は間違えました。間違えたあとにどうするかまで描かれているのが、この場面の大事なところです。
あわせて読みたい
キルアが兄の支配から抜け出していく流れは、針を抜く場面と、ゴンがキルアを取り戻しに行く場面から続けて読むとよく見えてきます。