ナメック星でベジータが涙を流しながら悟空に頼みごとをし、息絶える場面は、第26巻 其之308「ベジータ死す!!」です。サイヤ人の王子として誇り高く振る舞ってきたベジータが、他人に何かを託す回です。この記事は主要キャラクターの死に触れるので、未読の方はご注意ください。
どんな場面か
ナメック星での戦いで、ベジータはフリーザに致命傷を負わされます。倒れたベジータは、到着した悟空に、自分たちの故郷である惑星ベジータがフリーザに滅ぼされたことを語ります。そして涙を流しながら、サイヤ人の手でフリーザを倒してくれと頼み、息絶えます。悟空は彼を埋葬し、サイヤ人としての誇りを少し分けてもらうと言って、フリーザとの戦いに向かいます。
考察
誰にも頭を下げなかった王子が、頼んだ
作中の事実として、ベジータはこの場面まで、悟空を含む誰に対しても、自分より下の者として接してきました。地球に来たときも、ナメック星に来てからも、自分こそが最強のサイヤ人だという態度を崩していません。その彼が、ここでは悟空に頼みごとをしています。
ここからはヨミコミの読みです。ベジータの頼みは、プライドを捨てた結果ではなく、プライドの向かう先が変わった結果だと考えます。自分がフリーザを倒すことは、もうできない。それなら、同じサイヤ人である悟空に託すしかない。ベジータにとって本当に大事だったのは、自分が最強であることより、サイヤ人がフリーザに屈したまま終わらないことだった。死の間際に、それがはっきりしたのだと読めます。
涙の理由は、痛みではなく悔しさ
ベジータは、この場面で涙を流しています。誇り高く、冷酷にも見えたベジータの涙は、読者に強い印象を残します。
ヨミコミは、この涙を、体の痛みや死への恐怖よりも、長年の悔しさがあふれたものとして読みます。故郷を滅ぼした相手の下で働かされ、力の差ゆえに逆らうことができなかった。ようやく戦える力に手が届きそうになったところで、倒されてしまった。その積み重なった悔しさを、ベジータはこの場面で初めて表に出しています。弱さを見せたのではなく、隠してきたものを見せた、と言ったほうが近いのかもしれません。
悟空が受け取ったのは、頼みだけではない
悟空は、ベジータを埋葬しています。敵として戦った相手に対して、悟空は最後まで礼を尽くしました。そして、サイヤ人の誇りを少し分けてもらうと言って戦いに向かいます。
ここも解釈ですが、悟空はこれまで、地球育ちの自分がサイヤ人であることに、特別なこだわりをあまり見せてきませんでした。その悟空が、ここでサイヤ人の誇りという言葉を自分から口にしている。ベジータの頼みを受けたことで、悟空の中に、自分のルーツを背負って戦う意識が芽生えた場面として読むこともできます。フリーザとの戦いは、このあと悟空の大きな変化へとつながっていきます。
ベジータの物語の、最初の転換点
ベジータは、物語の後半でも何度も大きな選択をするキャラクターです。魔人ブウ編では、息子のトランクスを抱きしめて自分以外の誰かのために戦い、最終決戦では悟空を心の中で認めます。
其之308は、そうしたベジータの変化の、最初の転換点として読むことができます。自分の力だけを信じてきた男が、初めて誰かに託した。この経験がなければ、のちのベジータの選択も、違ったものになっていたかもしれません。
今の自分に置き換えると
自分で成し遂げたいと思ってきたことを、誰かに託さなければならない場面があります。体調や環境の変化、時間の制約。どれだけ悔しくても、自分の手ではもう届かないと認めるのは、簡単なことではありません。
この場面は、託すことが負けではないと見せてくれます。ベジータは、最後まで誇りを捨てていません。守りたいもののために、いちばん確実な相手に託した。それは、自分一人の手柄より、目的そのものを大事にした選択でした。
一方で、託される側の姿勢も描かれています。悟空は、相手の気持ちを受け止め、その人のことを大切に扱ってから前に進みました。誰かから何かを引き継いだときに、その人の思いまで一緒に受け取れているか。そんな問いを持って読み返すこともできる場面です。
あわせて読みたい
このあとのフリーザとの戦いで悟空が怒りをあらわにする場面(其之323)や、最終決戦でベジータが悟空を認める場面(其之510)とあわせて読むと、ベジータと悟空の関係の変化がよりはっきり見えてきます。