悟空とチチが第23回天下一武道会の場で結婚を決める場面は、第15巻 其之171「孫悟空の結婚」です。少年だった悟空が大人になって迎えた武道会で、子どものころの約束が思いがけない形で戻ってくる回です。
どんな場面か
第23回天下一武道会の本選1回戦で、悟空の対戦相手になったのは見知らぬ女性でした。彼女は試合の中で、悟空が昔の約束を忘れていると怒り、その約束とは自分を嫁にもらうことだと告げます。悟空が勝つと、彼女は自分が牛魔王の娘チチだと明かします。約束をした当時の悟空は、嫁を食べ物のことだと思っていて、約束の意味をわかっていませんでした。しかし事情を知ると、悟空は試合の場で、その約束を果たすと答えます。
考察
約束の意味を知らなかった悟空
まず作中の事実を確認します。悟空がチチとした約束は、子どものころのもので、悟空自身はその意味を理解していませんでした。それから長い年月がたち、チチは約束を覚えたまま、武道会の場で悟空の前に現れました。
ここからはヨミコミの読みです。悟空には、知らなかったから無効だ、と言う道もあったはずです。子どもだったこと、意味を知らなかったこと。理由としては十分にも見えます。けれど悟空はそうしませんでした。自分が口にした言葉を、相手が長い間信じて待っていた。その事実のほうを重く受け止めたのだと読めます。
言葉の責任を、あとから引き受ける
約束には、する瞬間と、守る瞬間があります。悟空の場合、この二つのあいだに、長い空白がありました。約束をした時点での悟空は、自分が何を引き受けたのかをわかっていなかった。だから本当の意味で約束が結ばれたのは、事情を知った其之171のほうだと見ることもできます。
ヨミコミは、この場面を、言葉の責任をあとから引き受けた決断として読みます。意味を知ったうえで、それでも果たすと答えた。そこには、軽い気持ちで交わした言葉であっても、相手にとっては重いものかもしれない、という悟空なりの誠実さが表れています。悟空はふだん細かいことを気にしない性格として描かれますが、相手を裏切らないことについては、驚くほどまっすぐです。
戦いの物語の中に置かれた、生活の始まり
この場面は、天下一武道会という、戦いの場のまっただなかに置かれています。この武道会には、ピッコロ大魔王の生まれ変わりも出場しており、悟空にとっては大きな戦いの場でもありました。
ここも解釈ですが、戦いの物語のまんなかで結婚が決まる配置には、悟空の人生がここから少しずつ変わっていくことが示されているように思えます。少年編の悟空は、強くなることと冒険だけを追いかけていました。この回を境に、悟空には帰る家と家族ができていきます。のちにサイヤ人編で息子の悟飯が登場し、物語は親と子の話へ広がっていきます。其之171は、その入り口にあたる回です。
チチの側から見た、この場面
チチの立場からこの場面を見ると、また違ったものが見えてきます。チチは、相手がもう忘れているかもしれない約束を信じて、自分から悟空の前に現れました。待つだけでなく、自分で確かめに行った。
ヨミコミは、この行動力もこの場面の大事な要素だと考えます。悟空の決断は、チチが動いたから生まれたものです。約束は、片方が覚えているだけでは果たされません。覚えていた人が行動し、忘れていた人がそれに応えた。この二つがそろって、はじめて約束が形になっています。
今の自分に置き換えると
昔、深く考えずに口にした言葉を、相手がずっと覚えていた。そんな経験は、人間関係の中で意外と起こります。軽い気持ちでした頼みごとの返事や、いつかやろうねという一言。自分は忘れていても、相手にとっては大事な言葉だったということがあります。
この場面は、そうした言葉にどう向き合うかを考えるきっかけになります。もちろん、昔の約束をすべて守らなければいけないわけではありません。事情が変わることもありますし、守れない約束もあります。大切なのは、相手がその言葉をどう受け取っていたかを知ったうえで、自分の答えを出すことです。果たすにしても、断るにしても、相手が待っていた時間を軽く扱わない。悟空の決断は、そうした向き合い方の一つとして読むことができます。
反対に、チチの側に自分を重ねる読み方もあります。相手が覚えているかどうかわからない約束や、言いそびれたままの気持ちを抱えているとき、待ち続けるだけでは何も動かないことがあります。チチは、自分から確かめに行きました。結果がどうなるかわからなくても、確かめることで、はっきりしなかった関係に答えが出る。人間関係で迷っているとき、相手の出方を待つのか、自分から聞いてみるのか。この場面は、その両方の立場から考え直すきっかけをくれます。
あわせて読みたい
悟空の育ての親との再会(其之108)や、のちに生まれた息子・悟飯をピッコロがかばう場面(其之223)とあわせて読むと、悟空の家族の物語がどうつながっていくかが見えてきます。