原作の最終回で、悟空が少年ウーブと戦い、鍛えるために連れて去る場面は、第42巻 其之519「バイバイ ドラゴンワールド」です。原作『ドラゴンボール』の物語は、この回で幕を閉じます。この記事は原作最終回の結末に触れるので、未読の方はご注意ください。
どんな場面か
魔人ブウとの戦いから10年後の天下一武道会。悟空は南の島から来た少年ウーブと対戦し、その素質を確かめると、自分が鍛えると言ってウーブを連れて会場を去ります。物語はここで終わります。なお、アニメ『ドラゴンボールGT』は別の結末を描いていますが、この記事は原作漫画だけを扱います。
考察
最後の戦いが、決着のない試合だった
作中の事実として、最終回の悟空とウーブの戦いは、どちらかが相手を倒して終わる戦いとしては描かれていません。悟空はウーブの力を確かめたうえで、彼を連れて会場をあとにします。
ここからはヨミコミの読みです。原作の多くの章は、強い敵との決着で区切られてきました。その物語の最後に置かれたのが、勝ち負けのつかない試合だったことには意味があると考えます。悟空はこの試合で、相手を倒すことではなく、相手の中にあるものを見つけることをしていました。戦いの目的が、自分が強くなることから、誰かを強くすることへ移っている。最終回はその移り変わりを、説明ではなく行動で見せています。
教わってきた人が、教える側に回る
悟空の物語は、教わることの連続でした。亀仙人のもとで基礎の暮らしから鍛えられ、神様や界王のもとでも修業を重ねてきました。悟空の強さは、ひとりで身につけたものではなく、何人もの師から受け取ってきたものです。
ヨミコミは、最終回をその流れの行き着いた先として読みます。いつも教わる側だった悟空が、最後に自分から教える側に回る。亀仙人がかつて少年の悟空を迎え入れたように、今度は悟空が、南の島から来た少年を迎え入れる。そう考えると、この結末は唐突な旅立ちではなく、悟空が受け取ってきたものを次へ渡す場面として見えてきます。
ここで大事なのは、悟空が自分から声をかけている点だと考えます。素質を見つけたうえで、自分が鍛えると申し出る。待っているだけでは、次の世代とは出会えない。悟空の師たちも、少年の悟空に何かを見いだして手を差し伸べてきました。最終回の悟空は、その手の差し伸べ方まで受け継いでいるように読めます。
ブウとの決着から続いている
作中では、ウーブが魔人ブウの生まれ変わりであることが示されています。其之516で、悟空は倒す直前のブウに、次は一対一で勝負したい、待っていると声をかけていました。
最終回でも悟空は、ウーブを背負って飛び去りながら、修業が終わったらまた改めて勝負しようと持ちかけています。
ヨミコミの読みでは、最終回はその言葉への答えでもあります。倒した相手と、次は別の形で向き合う。悟空が戦いの中で口にした願いが、10年後に師と弟子という形で実現している。強さを競う物語が、強さを受け継ぐ物語へと姿を変えて終わる。ここに、この最終回の静かな余韻があると考えます。
今の自分に置き換えると
何かを長く続けていると、いつの間にか教わる側から教える側に回っていることがあります。仕事でも趣味でも、後から来た人に何かを渡す場面は、特別な肩書きがなくても訪れます。
そのときに思い出したいのは、自分もまた誰かから受け取ってきたということかもしれません。悟空が少年を連れて飛び立ったのは、自分がそうしてもらってきたからだと読むこともできます。次の世代へ向かうことは、自分の挑戦が終わることではなく、挑戦の形が変わることなのだと、この最終回は描いているように思います。
あわせて読みたい
最終回の直前にあたる魔人ブウとの決着(其之516)と、悟空が教わる側だったころの亀仙人の修業の回をあわせて読むと、この最終回が物語全体の中でどこに位置するのかが見えてきます。