サンジがルフィの船に乗ると決め、店の前でゼフに深く頭を下げて旅立つ場面は、第8巻 第68話「4人目」です。アニメでは第30話にあたります。バラティエ編の締めくくりであり、サンジが一味に加わる回です。
どんな場面か
クリーク海賊団との戦いが終わったあと、サンジはルフィの船に乗ると決めます。出発の朝、素直になれずにいたサンジを、コックたちとオーナーのゼフはいつもの乱暴な調子で送り出します。サンジは店の前でゼフに向かって深く頭を下げ、長年の礼を叫んでから船に乗り込みます。
考察
サンジがバラティエを離れられなかった理由
作中の事実として、サンジとゼフには特別な過去があります。幼いサンジは、元海賊のゼフとともに海の岩場に取り残され、飢えに苦しむ日々を過ごしました。ゼフは食料をすべてサンジに渡し、自分は片足を犠牲にして飢えをしのいでいました。二人はその後、海の上にレストランを開きました。
ヨミコミの読みでは、サンジが店に残り続けたのは、この恩を返し終わっていないと感じていたからです。ゼフの夢と足を自分が奪ったのではないか。だから自分はここでゼフを守らなければならない。バラティエ編のサンジの行動は、料理人としての誇りと同じくらい、この借りの意識に支えられていたように見えます。店を守ることが、サンジにとっての恩返しの形でした。
恩を返す方法が、残ることから行くことへ
もう一つの事実として、サンジとゼフは、世界中の海の魚が集まるという伝説の海、オールブルーの夢を共有していました。
ヨミコミは、この旅立ちを恩返しの方法が変わった瞬間として読みます。店に残って守り続けることが、ゼフの望む恩返しだったとは限りません。自分の分まで食料を託してくれた人にとって、いちばんの報いは、託された命でサンジが夢を追うことだったのではないでしょうか。サンジが海に出ることは、恩を踏み倒すことではなく、ゼフの夢を連れて行くことでもあります。ルフィの誘いは、サンジにその道を選ぶきっかけを与えたと考えます。
乱暴な言葉でしか言えない礼
バラティエでは、客にもコック同士にも、荒っぽい言葉が飛び交っていました。ゼフとサンジも、互いに素直な言葉をかけ合う関係としては描かれていません。出発の朝も、ゼフはいつもの調子で、体に気をつけろという趣旨の一言をかけるだけです。
ヨミコミの読みでは、サンジの礼の言葉に乱暴な言い回しが混ざっているのは、照れ隠しであると同時に、二人が一緒に過ごした時間そのものの言葉だからです。かしこまった敬語で礼を言えば、それはどこか他人行儀になってしまう。この店の言葉で、この店のやり方で頭を下げる。それが、長い時間を共にした相手に対していちばん正直な伝え方だったのだと思います。涙を流して頭を下げるサンジの姿には、言葉の中身以上のものが込められています。
話タイトルが示すもの
この回のタイトルは、サンジが一味に加わることを示しています。ヨミコミは、仲間が一人増えるという明るい出来事の裏に、一つの師弟関係の区切りが置かれている点に注目します。何かに加わることは、多くの場合、何かを離れることと同時に起きます。この回は、その両方を一つの場面で描いています。
今の自分に置き換えると
お世話になった職場や師匠、家族のもとを離れるとき、裏切るような後ろめたさを感じる人は少なくありません。恩があるからこそ、離れる決断が遅れることもあります。
この場面は、恩を返す方法が一つではないことを描いています。そばに残ることだけが恩返しではなく、受け取ったものを持って自分の道を進むことも、相手の望む形でありうる。もちろん、実際の判断は状況によって違いますし、残る選択にも同じだけの意味があります。どちらを選ぶにしても、最後に礼をきちんと伝えることは、自分にとっても区切りになります。うまい言葉でなくても、自分たちらしい言い方で伝えればいい。サンジの礼は、そのことを思い出させてくれます。
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同じバラティエで描かれるゾロとミホークの勝負、そしてサンジが加わった一味がすぐに向き合うことになるアーロンパークでのナミの場面をあわせて読むと、東の海編の流れがつながって見えてきます。